~ある体質~
そう言えば、自分と向き合う事なんて、ここ何年もなかったな。
そんな事を冷静に考えながら、自分の人生を振り返っていた。
「健次君?」
もう何年も下の名前で呼ばれる事などなかったから、それが自分の名前である事を理解するのに時間がかかってしまった。
何回呼び掛けてくれていたのだろう。
ふっと我に返ると、何人かが心配そうな顔で自分を見ているのに気付いた。
きっと、恐い顔をしていたに違いない。
あの事件があって以来、考え事をすると眉間に皺を寄せる癖がついてしまった。
そうやって、予防線を張って生きてきた。
あの日以来。
実家には、もう十何以上帰っていない。
だから、自分の身なりや風貌はもちろん、性格まできっとあの頃とは変わっているに違いない。もちろん皆も。
変わってないのは、健次という名前だけ…
何か後悔のようなものが一瞬頭をよぎり、ため息を一つついたが、それがこの空間に対するため息のように周りが感じたようなので「すみません。」と謝ってから話始めた。
「じゃあ、先ずは僕から」と言ってみたモノの、何をどう話て良いのか分からなかったから、少しだけ間が空いた。
その時、「安心して、皆同じだから。大丈夫」と誰かが言った。
またか… と心の中で呟くも、どこかホッとしていた。
昔から、優しい言葉をかけられたり、優しくされる事には長けていた気がする。
というか、僕が望む望まないに関係なく、そうなっていた気がする。
やはり、僕は良くも悪くも『愛され体質』なのだと思う。
そうだ、この話をしよう。
僕の実家は、地元でも有名な酒蔵だ。
と言っても、それは僕の祖父の酒蔵で、今は親父の弟が後を継いでいる。
親父は酒蔵とは全く関係のない仕事に就いた。
何故長男の親父が跡を継がなかったのか分からない。
たぶん、親父が全く酒が飲めないからだと思う。
少なくとも僕は、親父が酒を飲んでいるのを見た事がない。
そんな親父が、お袋と結婚して、僕が産まれた時には、親父より祖父が喜んでいた気がする。
だから僕の幼い頃の遊び場所は、酒蔵だった。
酒蔵に行くと、祖父は色んな物をくれた。
だから僕は、祖父も酒蔵も大好きだった。
親父は僕に何でも買い与える祖父を毛嫌してるようにも見えた。
だから、僕はいつも親父の目を盗んでは酒蔵に行き、祖父に存分に甘やかされて、家では良い子を演じていた。
もちろん、僕は長男だから家でも存分に甘やかされた。
子供の頃の写真を見ると、本当に沢山の物に囲まれていたし、何より写真の多さがそれを物語っている。
妹も、初めての女の子という事で、それはそれで愛されていたのだろうが、何か自分だけは常に暑苦しいまでの愛情に囲まれていた気がする。
弟に至っては、写真も存在しない。
だからその頃から、僕の器用なまでの「可愛いがられ癖」と「愛され体質」が形成されて行ったのかもしれない。
次回は、Vol.2ファンタの物語第1話『アメリカン
クラッカー』
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