『メビウスの輪』vol.12 音無誠 第3話
家の近くには
緩やかに流れる川がある
その渓流には
僕の秘密の場所がある…
高校は冬休みに入る前に
退学していた
家をでて
トムの所に転がり込み
住み込みで働かせてもらった
『love&Peace』
のエミリーと頻繁に逢うようになった
娼婦のエミリーとは
店以外でも逢うようになり
街に一件しかない
バガーショップでよく
待ち合わせをした
ハンバーガーを箸で食べる
ちょっと変わったエミリー
幼い頃日本にきた彼女は
両親から
早く日本文化に慣れるよう
食事は箸を使わされていたようだ
外国人が器用に箸を使う…
そんなギャップに
僕はメロメロだった
僕は輪島塗の箸箱と箸を
エミリーにプレゼントした
彼女は凄く喜んでくれた
二人の愛は永遠に続く気がした…
僕が19歳の夏
エミリーが消えた
連絡も取れず
店も辞めていた
その日、途方にくれて
レストランに帰ると
トムが警察に連れていかれる
ところだった
大麻栽培、所持…
何も知らなかった僕も
事情聴取の為警察に連れたが
直ぐに解放された
しばらくして
父が身元引受人で迎えに
来てくれた
帰り道
父の運転する車内には
重い空気が佇んでいた
突然のエミリーの失踪
トムの逮捕
今後の自分の事
いろいろありすぎて
どうにかなりそうだった
そんな時
父がゆっくり話しかけてきた
『酒蔵を継いで欲しい…』と
兄さんが酒蔵を継がず
独立して医者になったことを
聞かされた
初めて父に
頼み事をされ驚いたが
少し嬉しかった
田舎では就職は厳しい
高校中退の僕ではなおさらだ
少し救われた気がした
そしてなにより
母が大事にしていた酒蔵だ
僕は小さい声で
『わかった、酒蔵を継ぐよ』
と答えた
その時の父の顔は
今まで見せた事のない
優しい顔だった…
実家に戻り一年
ようやく酒蔵の仕事にも慣れ
エミリーの事も忘れかけていた
兄さんは忙しいのか
正月しか実家に顔をださない
それが
ある残暑厳しい夏の終わりに
兄さんが実家に帰ってきた
一人の女性を連れて…
その女性はなんと
エイドリアン・エミリーだった
二人は結婚の報告にきたのだ
目の前が真っ暗になり
倒れそうになった
幸せそうに会話する二人
エミリーは
僕には魅せたことない
笑顔で兄さんを見つめている
兄さんへの嫉妬
エミリーへの………
この日を境に
僕は崩れていった…
酒蔵の奥の部屋で
誰も居なくなったトムのレストランから隠しあった
大麻を持ってきて栽培をした
現実から
自分から
エミリーから逃れるために…
二人の間には直ぐに
子供が産まれた
健二、百合、そして裕三
僕を傷つけた二人の子供達…
だが
僕は百合だけは異常なまでに可愛いがった
エミリーに似ていたからだ
僕の秘密の部屋にも
百合だけは入れていた
30過ぎの僕は
すべてをさらけ出した
エミリーと幼い百合を
重ねていたのだろう…
百合が10歳のとき
家族の前から
エミリーは突然姿を消した
突然の出来事で
兄さんの家族たち
は戸惑った
僕は、心の中で
微笑んだ…
エミリーが居なくなり
寂しがっていた
幼い百合に
大麻を吸わせた…
復讐のために…
その百合が
『YO!YO!誠おじちゃん
葉っぱ作って!吸って!ラリってる〜HEY サノバビッチ!』
と、外国人の血のせいか
大麻のせいか
百合は変な歌にして
近所のおばちゃんたちに
自慢の歌声を披露していた
しばらくして
捜査が入り
僕は警察のお世話になる事に…
4年後寒い朝
罪を償って戻ってきた
自分の弱さを反省した
兄さんの家族たちにすまない気持ちでいっぱいだった
新しくやり直そうと思っていたが
田舎町は、家族は冷たかった…
何かあると
僕は家の近くの渓流にある
大きなもみじの木の下にいく
紅葉が真っ最中
燃えるような赤々した葉
それはまるで
『真っ赤なマニキュア』のようだった…
ここは
母が好きだった場所…
そして
母が眠る場所…
川の流れは
静かに流れ
僕の心を癒やしてくれる…
次は
vol.13 吉永百合 第3話
『トンネル』
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