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『メビウスの輪』vol.13 吉永百合第3話

vol.14 吉永百合第3話
〜トンネル〜

まただ‥

そう思い私は小さく溜め息をついた。

いつも感じていたこの空気‥。

母がいなくなってから、父は廃人のように母の名前を呟き私達兄弟には身向きもしない。
私は母の代わりを努めようと必死だった。

学校行きながら家事をこなした。

母がいなくともまず家庭を壊したくなかった‥。

しかし‥
家族は誰も『家族』に興味を抱かない‥

私は母のようになりたかった。
母はいつも笑っていた。

みんなが笑っていないと母が帰って来てくれないと思った。
いや、母が帰ってくるかどうかより、母がいた時のような明るい家族でいたかった。

しかしまだ子供だった私が家族とはなんぞや。とみんなに語れるわけもなく、でも必死に私なりの持論でみんなを説得したかった。
『家族』を語りたいのになぜか私は
首なが族、マヤイ族さらに暴走族。
たくさんの族の話をした。

しかしみんなの耳には届かなかった‥。
母がいなくなってからというもの、マンツーマンでかわいがってきた祐三すら、「シスター族違いでゾクゾクするよ」というしまつ。
家族の溝は深まるばかり‥。

その中誠おじさんだけは違った。
母がいなくなってから頻繁に出入りするようになったまこちゃん。いや誠おじさん。

私がしゃべる事に日本人とは思えないリアクション、作るものにはおいしいおいしいと言ってくれた。

誠おじさんだけは私を母の代わりと認めてくれていたようだった‥。

そうあの時までは私は唯一の理解者だと思っていた。

母がいなくなってからしばらく経った頃、まこちゃんは私をあの酒蔵に頻繁に連れて行った。
酒蔵の奥には小さなトンネルがあり、くぐり抜けると見慣れぬドアがあった。

入るとそこは緑が茂るが異様な空気が流れていた、おじさんはおもむろにタバコのようなものを吸い始めた。

私にも必用なまでにすすめてきた。

『タバコはハタチになってからJAからのお知らせです』
タバコを吸う母に吸ってみたいと言うといつも言われていたので断り続けた。

そして、何度目だろう異空間へのトンネルをくぐり抜け酒蔵の奥のジャングルに連れてこられ、タバコのようなものをすすめられたある日。
私が断るとおじさんはとても悲しそうな顔をした。
私を唯一認めてくれているおじさんまで離れていってしまう気がした。

そして一服、二服‥。
私は吸い込んだ。
すると、だんだん目が回って来て世界がキラキラしてきた。

するとおじさんもいつものように腹踊りをしながら赤いマニキュアを自分の爪に塗りだした。

そして私にも‥
小さく『サノバビッチ』と呟くとおじさんは息を荒くして
部屋の奥にあるピンクのカーテンに遮られた場所に私を連れて行った‥

カーテンには『吉原』と書かれたボロボロの紙がセロハンテープで貼られていた。

ピンク色の鮮やかさと紙のボロボロさが異質感をよりいっそう際立たせた。

カーテンをくぐると、強すぎる石鹸の匂いが鼻をついた。
そこには何故か金色の椅子があった。

そして母の写真が貼られていた。

するとおじさんは『シッダーウン♪』そう言った。もちろん歌い踊りながら‥

私も楽しくなってきて小躍りし始めた。
その時のおじさんは一人リオのカーニバルだった‥。

そのおじさんの表情で思い出した。
家の庭から母を見つめる純心でいて醜くもあり何かに欲情しているかのようでいて晴れ晴れしい顔をした人。
そうそれがおじさんだった。

それのすべてが繋がった時、私は愕然とした。

おじさんの今までの優しさは、私と母を重ねて見ていたからだった。
そう気付いてしまった‥。

吸うといつも私をエイミーと呼ぶのも全部分かってた。

そしておじさんのリオのカーニバルの艶やかさとは裏腹に私の心は祭りの後の静けさの様だった。
やけになり何本もの大麻を吸った。

そしておじさんが眠りについてしまい私はラリラリで歌いながら帰った。
帰りに通ったトンネルの暗闇はいつまでも明けない空に感じた。

もう深夜だったのだろう。
周りの家は電気も消え、私には何もないと言われているようで私の心は益々寂しくなった。

家のドアを開けると玄関にはダディがいた。

「何時だと思ってるんだ!こんなマニキュアまで塗って!! 」

そう言うと私の頬をパチンと叩いた。

私は辛かったのと怖かったのと何よりダディが私を怒ってくれたのが嬉しくてまた声を上げて泣いた。

すると奥から祐三が出てきて「シスター‥」
と大好きな安コーラ(ドン・キホーテで49円)をくれた。
私は一人なんかじゃない。
そう初めて思えた瞬間だった。

次の日酒蔵にはパトカーが止まっていた。
私が歌っていた歌詞に問題があったようだけど、その時の私には知る由もなかった。
そしておじさんは刑務所に入ってしまった‥。
あの吸っていたものが大麻だったと知ったのはつい最近だった。
いけない事だけど大麻を吸ったおじさんは輝いていた。

その事件のあとも私達家族は何事もなかったように、生活していた。

でも私は変わった。
強くなれた。
なんだかんだ言ってみんな私を必要としてくれている。
そう思えた。

ダディはいつもうわの空。私の頼りの兄は家を出ていった。
弟は引きこもりがちだが私とは少し会話をしてくれた。

バラバラだけど私は自分の居場所を見つける事が出来たと思ってる。

いつか私の家族もトンネルを抜ける日が来ると信じてる。
終りなきトンネルなどないはずなのだから。

次は
vol.15 山口祐三 第3話
『sorry』

お楽しみに☆

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