『メビウスの輪』vol.15 音有勇第3話
妻がいなくなってから家の事を妻の様にこなす娘百合。
…特に食事の時に使う箸の使い方を見ているとつい妻を想像してしまう。
…容姿も妻にそっくりになってきてふと妻と勘違いするぐらいで、とても嬉しかった。
…妻のDNAを受け継いでいる子供がいる事は唯一の救いだった。
しかし頑固者の俺は態度には現さず、ヒステリックな廃人を演じ続けていた…。
エミリーは編み物が趣味で、良く百合に教えては二人仲良く楽しんでいた。
…そして百合が初めて編み上げた自慢の手袋が、ある日玄関に置き去りにされているのを見つけた。
…なんだか胸騒ぎがする。
その悪い予感は的中してしまう。
…その日夜遅くなっても中々百合が帰ってこなぃ。
…心配で心配でたまらなぃ。
これで娘まで失う事になったら…俺はどうやって生きて行けばいいのだろう。
…しかし健次、裕三に知られまいと冷静を装い玄関近くでこっそりと帰りを待っていた…。
手袋を良く見ると中に手紙の様な紙切れが入っていた…その手紙を開くと百合の字で
『GIVE ME,わたあめ』
と書いてあった。
そういえば、食後恒例のアメリカンクラッカーをやったあと、ざらめ糖ダケでわたあめが作れる事を知っていた俺は、子供達を喜ばせようと実験的にわたあめを作った事があった。
…思いの他うまく作れたので調子に乗ってたくさん作った。
…みんな凄く喜んで食べてくれてなんだか鼻が高かった。
今思うと、あの頃が一番幸福に囲まれていた時間だったのカモしれなぃ。
百合はどんな想いでこんな紙切れを手袋に入れていたのだろう…なんだか自然と涙がこぼれ落ちた…。
と、その瞬間玄関のドアが激しく開き、現実に引き戻された。
…百合が裸足で勢いよく入って来た。
…激しい安堵と共に、
「何時だと思ってるんだ!こんなマニキュアまで塗って!! 」
とっさにそんな台詞を吐き捨て気がつくと百合の頬をパチンと叩いていた…
「心配かけやがって。」
ぼそっと俺は呟くと、百合は頬を叩かれた痛さというより、むしろ嬉しそうにこちらを向き声を上げて泣きだした…そんな百合を俺は強く抱きしめ、百合はしばらく泣き崩れた。
自分は涙を見せまいと必死に涙をこらえていた。
妻への暴力を見て怯えていた子供達には俺は決して手は出さなかったが、
衝動的ではあったが、時に『愛のムチ』は家族の絆を強くするもんなのかと、この時始めてわかった。
そして、かけがえのなぃ宝物…娘の暖かさを肌で感じた瞬間でもあった。
次の日、弟の誠が大麻の所持と栽培で逮捕された。
公開された禁断の部屋には大量の大麻草、
そして『吉原』と貼紙が貼られた鮮やかなピンク色のカーテンの奥は…
あのエミリーがいた吉原の『LOVE&PEACE』の一室が忠実に再現されており、
若い頃のエミリーのはにかんだ写真、
弟とのツーショット写真、
手紙があった…その手紙から漆の箸と箸箱が誠によるプレゼントだという事がわかった。
…そして、以前エミリーからストーカーみたいなお客さんがいて怖いと相談を受けていた事、
弟を毛嫌いしていた事、
すべてが気持ち悪いくらい弟の言動と一致した時、
昨夜の娘との交流で、自分の中でようやく溶け始めて来た心が、今まで以上に深い深い所へと閉ざす様になってしまった。
ショックのあまり何もする気になれなかった…生きる気力もなく、かといって自殺する勇気もなく、子供達には変わらない様に映ったカモしれないが、演じるのでは無く間違いなくリアルな廃人になってしまった。
それからの記憶が凄く曖昧だ。
…すっかり気力を失ってしまった俺は医者を休業し、
家に篭り出した…確かすぐに長男の健次が出て行き、
末っ子の裕三を実の父親に引き取ってもらぃ、
いつの間にか百合もいなくなって…。
それから俺は一人ぼっち。
のはずなんだけれど、
なんだか誰かに守られている様な…
一人ではない様な…
そんな不思議な感覚で日々を過ごしていた…。
次回はvol.16
深作健次の物語
第4話『ひらめき』です。
お楽しみにっ(^_-)-☆
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