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『メビウスの輪』vol.18 音無誠 第4話

Blog_r 〜 ちょっちゅね〜 〜

出所した
あの寒い冬から3ヶ月がたった
暖かい春の木漏れ日のなか
僕の氷ついた心も
次第に溶け始めていた

心機一転
酒蔵を頑張っていこう
そう
母の墓前で誓った!

世間では
密かに焼酎ブームが始まっていた
芋、麦、黒糖、米…

僕は、今までにない
焼酎造りに挑戦した

名前は
初めから決めてあった

『らぶ&ぴ〜す』

甘く広がる香りと
やさしく包まれる味…

必死に仕事に打ち込んだ
そして
自信作が出来上がった

この名前にしたのは
僕の人生を変えた
あの
『LOVE&Peace』を
忘れないためである

もう二度と道を
踏み外さないようにと…

焼酎『らぶ&ぴ〜す』は
味、香り
そして、ポップで
キュートなネーミングが
大都会渋谷の若者の間で
話題になり

焼酎ブームにものり
一躍、人気焼酎になった

生産が追いつかず
プレミアがつき
幻の焼酎として
さらに
その名を響かせた

どの店も
焼酎『らぶ&ぴ〜す』を
ガラス戸の中の
一番目立つ所に置く

一種のステータスになる

そうなると
いろんな人間が
僕の周りに寄ってきた

その一人に
あの努おじさん…トムがいた

五年まえに出所して
行方がわからなかったトムが
ふと
酒蔵に現れた

トムは
酒蔵の経営に関わってきた

焼酎を造る上で
欠かせないのが

『米』

である

トムは
大量生産するために
『事故米』を
僕の知らない所で
使いはじめた…

『事故米』を使ったことは
直ぐに知れ渡り

トムは会社の金を
持って行方を眩ました…

全ての責任は
僕に掛かってきた

マスコミ対応、商品回収、酒蔵経営…

問題は山積みだ

僕は
現実から逃れる為
また
大麻を吸った

そこには
弱い自分がいた

執行猶予中だったので
直ぐに捕まってしまった

懲役8年10ヵ月
執行猶予2年

僕は
冷たい塀の中で考える事を止めた
暗い殻に閉じこもった…

入所してから
一年
一通の手紙が届いた

なんと差出人は
裕三であった

中には
紙一杯に書かれた

『青空』の絵が書かれていた

優しく輝く太陽
澄んだ空、草木の薫りが漂う草原

裕三の純粋な心が

今の僕には眩し過ぎるほどだ…
裏には

『ちょっちゅね〜』と
書かれていた

『ちょっちゅね〜』とは
方言で
『一生懸命頑張れ』と言う意味だ

僕は
家族の愛情、大切さを
鉄格子越しに見える
青空を見上げながら考えた…

窓開けると
優しい春の薫りの風が
吹き込んできた…

次は
vol.19 山口裕三 第4話
『覚醒した力』

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vol.17 『メビウスの輪』吉永百合 第4話

vol.15『メビウスの輪』吉永百合 第4話
〜ヤング寺岡69〜

17歳の夏‥

ハイスクールララバイを楽しみにしていたものの、主婦業をこなす私には学校帰りのマックなど夢のまた夢だった‥

ある日いつものように帰り道に祐三の施設に行くと
『すいません。いきなり走ってどこかに‥』
祐三がなついていた藤木直人先生がそう言った。

直人と私は探し回った。
しかし祐三は見つからない。

まず家に帰ってダディに言わなきゃ。
お兄にも言ったら帰ってきてくれるかも‥

色々な事を考えながらダッシュで家に帰った。

すると中から聞いた事のない笑い声が聞こえてきた。

誰??

慌ててリビングのドアを開けると‥

そこには見た事のない顔で声で笑う祐三がいた。

『心配したんだよ!!ばかっ!!』

祐三を思わず叩くと

『ぎゃっはっはっはっ』

祐三の笑いは止まらない。

『シスターシスターコレアルよコレアルバッチョフバッチョフ』

何を言っているかと言うと
『姉ちゃん姉ちゃんこれ!お笑い番組これ見たくて帰ってきちゃった』

先週一緒に見ていた『爆笑しまSHOW』
だった。

夕方10分間ヤング寺岡69が一人ですべりまくる視聴率1%以下の番組だ。

見ていて不快感すら感じるひどいネタだ。

しかし祐三は此見よがしに笑い悶えている。

祐三が好きならそれで良いや。
こんなに笑っている祐三を見たのは何年ぶりだろう。
抱腹絶倒。
まさにそんな言葉がぴったりだ。

藤木直人先生に
『祐三くんも変わってかたんだ。百合ちゃんも変わらなきゃ』
そう言ってデートに誘われた。
まぁまぁ長身(180cm)でまぁまぁのフェイス(目が大きくて鼻が高くアゴのラインはすっきり)どこにでもいそうなモデル?(メンズノンノの表紙系)だったが
暇なので付き合ってあげた。

六本木ヒルズでランチをして映画を見て東京タワーに登った。

どこか晴れない気持ちだった。
モヤモヤは私の中でどんどん膨らんでゆく。

理由も分からないまま東京タワーについた。

展望室に着くなりあるものが目に入った。
肩に手を回して来た藤木直人先生の手を振り払いそこに行くと‥

展望室の中で誰にも見られていないのに
ネタを続けるヤング寺岡69がそこにいた。

私は足に根が生えた様にそこに立ち尽くした。

『どうしたの?行こうか』
そう言った藤木直人先生の顔がへのへのもへじに見えた。

ヤング寺岡69は私が来る前も来た後も変わる事なくハイテンションでネタを続けていた。

気付くと私は恋に落ちていた‥。

いや初めから落ちていたのかも知れない。
そうTVの中で初めて見たあの日からわたしも祐三のように‥

この出会いが私と祐三を大きく変えるとは
この時はまだ知る由もなかった。

次はvol.16音無誠『ちょっちゅね〜』

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vol.16 『メビウスの輪』深作健次 第4話

081101_164346 ~ひらめき~

自分の選択が本当に正しかったのかなんて、それは誰にも分からない事だ。

巨万の富を築いた成功者ですら、自分のやってきた事が本当に正しいのかどうかは分からない。使い切れない程の金を手に入れたところで、果たして自分の人生は正解なのか?果たして本当に幸福なのか?

ある研究によると、「もっともっと」と求め続ける人間は、例えその欲が満たされても、またすぐ次の欲求が出てくるという。

僕は、精神科医の傍ら「幸福」というものについて研究するようになった。

それは自分の幸福を求めるように、家族の幸福を求めるように…

そして、ある一つの結論に至った

人間は、将来の幸せを予想すことが得意ではなく、欲しいものを手に入れた後の幸せを常に過大評価しているということ。

幸せを感じられるのは、「今」でしかないということ。

僕は、常に先の事ばかり考えていた。

こうしたら、もっと家族が幸せになるんじゃないか?

こうしたら、あの時の過ちを取り戻せるのじゃないかと。

愛され体質が奪われたあの日、もっと父の前で大声を出して泣きじゃくって甘えていれば、父はその後も愛情を掛けてくれていたのではないか?そんな事をずっと考えたいた。

百合が夜遊びして帰って来た日、玄関先で怒鳴る父の声が聞こえた

その後、危険を知らせる祐三の「コーネリアス!」という合図が聞こえた。

僕は、咄嗟に買いだめしてあったドンキの安コーラを祐三に渡した。

これを、家族皆で飲めば、シュワッとした安い炭酸の心地よさと共に、色んな家族の蟠りも弾けるのではないかと。淡い期待を寄せたが、上手くはいかなかった。

僕は「おい。健次も出てきて皆で安コーラを飲まないか?」と、父から呼び出されるのを大いに期待しつつ、部屋でコーラを持って待機していたのだが、祐三は百合にしかコーラを渡さず、残りの2本を自分でがめた。

父は、ただただ立ち尽くしていた。

コーラが貰えなかった事がそんなに寂しかったのかな?

そんな事を思いながら、僕は自分の思い描いた幸せの姿を達成出来なかった切なさと共に、家を出ることを決心した。

家族は、僕が家を出たのは、誠おじさんの大麻栽培が原因だと思っているが、本当の理由は安コーラ作戦が失敗したからだった。

やはり、付け焼刃のひらめきのような方法では、幸せは得られないと思った。

それから、「幸福」について日夜研究する日々。

そんなことに執念を燃やしてるうちに、結婚して子供ができて、嫁と娘に逃げられた。

幸せを求めて、家族を失うなんて、本当に馬鹿げている。

その日以来、余計に「幸福」を求めるようになった。

しかし、今日一つの結論に達した。

幸福は、常に「今」にしか存在しない。

あの日、玄関先で立ち尽くしていた父は、もしかしたら百合を叱って、それに答えた百合の姿を見て、その瞬間の幸せを噛みしめていたのかも知れない。

僕も、あの時自分が思い描いた変な幸福感に縛られず、その瞬間の幸福を感じられれば良かったのだ。

結婚や出産という、人がおおよそ幸福を感じる瞬間もすっかり忘れてしまっていた。

今僕は…

ここで家族が一堂に会している事に幸せを感じている。

この先の展開がどうなろうとも

正しいかどうかなんて抜きにして

「今」この瞬間の幸せを感じていきたい。

※写真は、僕が篭っていた某医科大学の研究室の脇のボイラー室の写真です。

次回vol.15『メビウスの輪』吉永百合 第4話

~ヤング寺岡69~

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