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『メビウスの輪』vol.19 山口祐三 第4話

Source_dsc02002 ~覚醒した力~

僕の大好きな画家「ポパイ」。彼は、民族同士の争いが絶えない時代に一枚の絵を掲げ国に平和をもたらしたという偉人だ。その時の絵、

「石ころ」

大きなキャンパスに一つの石ころの絵と共に

「我々は皆この石ころの様なもんだ。」

との一言で争っていた民族たちは全員武器を捨てたという。


僕はいつも言えなかった。気持ちを、本心を、心を。いつも、そうだった。

叔父さんが大麻というハッパを吸っている時、目がおかしくなって、きっとこれは危ないハッパなんだと思っていながらも
「叔父さん、やめなよ」
とは言えなかった。


ねぇさんが僕の事を思って買って来てくれた「ナイキ」のTシャツだと思ったロゴ表示が「タマキ」だった時も、

「ねぇさん、これ、パチ物だよ」

とは言えなかった。


母さんがいなくなってからいつも見えない誰かと話をするようになった父さんが靴ベラに向かって「今、何時?」と聞いてる父さんに、

「12時40分だよ」

とは言えなかった。


兄さんが高校三年生の時に大便を漏らした事は誰にも言わなかった。


そして、家族はバラバラになった。


あの時、ちゃんと伝えていればよかったと思ってももう戻って来ない。


叔父さんが捕まり、兄さんが出ていき、ねぇさんが失踪した。

そして、僕は本当の父親と名乗る「ボブ」という男に引き取られた。

がっちりとした体格で黒いタンクトップ。暇さえあればアーミーナイフをといでいる。昔は、軍人だったのかもしれない。本当の父親と知っても彼に対して特別な感情は沸いてこなかった。

ここは、僕の場所ではない。そう思いボブ家を出た。

そして、三日三晩あてもなく街を彷徨い歩いた。特に行く場所もある訳でもなく、する事もなく、ただ、ただ歩いた。三日目の晩、歩き疲れてうつむきベンチに座っていると一人の男が話しかけてきた。ふと見上げると、

ヤング寺岡69だった。

一昔前、テレビに出ていたお笑い芸人。世間的には全く人気がなく、いつの間にかテレビから消えてってしまったが僕は好きだった。やる事なす事突拍子もなく、あまり、意味のよくわからないギャグを連発していた。その、ヤングがなぜここに?と思いながらも、

「どうした?」

というヤングの一言に僕は、いや、「ソーリー」が思いのすべてを話した。

三時間ほど「ソーリー」がしゃべり尽くしたあと意味が通じたのか通じてないのかわからないが、ヤングがすっと立ち上がり

「裸になれ!」

と言って自分の服を脱ぎ捨て繁華街に走り去って行った。それっきり戻って来なかった。

僕は、その言葉に衝撃を受けた。「裸になれ」つまり、ありのまま?僕はいままで壁を作ってたのかもしれない。いつだって、本当の事を言えないのは「ソーリー」のせいにして。でも、言えなくても伝える事はできる。きっとヤングは言葉にしないかわりに服を脱ぎ繁華街に走り去るという行動で伝えてくれたのだと思う。


「ポパイ」もそうだったはず。武器をもった民族の間に入って絵を掲げた。

「裸になれ」

ありがとう。ヤング。

僕も、キャンパスの上で裸になって見ようと思った。気持ちのすべてをぶつけてありのままに。家族の間にありのままの僕を。




次の日。新聞の一面


「お笑い芸人、ヤング寺岡69逮捕。繁華街を全裸で疾走。」



大変ながながお待たせしました。次回は、vol.20音無 勇 第四話。
「何枚目のティッシュ?」です。お楽しみに!

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